医療法人 メディカルフロンティア

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蔵出し医療談義(7) =心遺りの医療点描(2)= 「コンスタンチン外交の果」

04月15日
 北方領土をめぐる日露関係が、解決に動き出しそうな雰囲気を漂わす御時世に成りつつある気配も、チラホラ報道されるようになった昨今ではありますが、まだまだ難しい課題が山積していそうな情況も否めないところではあります。第二次世界大戦終戦以来約75年を経ても尚、未だ解決をみない長年の懸案ではありましたが、今から遡ってみること約30年位前頃の出来事で、北方領土問題解決に向かいそうな気配の匂い出す接触が図れたエピソードがありました。

 「コンスタンチン外交」とも通称されるロシアとの交渉を前進させ得るチャンスとなるきっかけを掴む出来事がありました。ロシアの東端れに位置するサハリン州で、重症熱傷を負った幼児の治療のため、北海道の札幌医大にヘリ空輸され、入院治療を施すという医療支援が実践されたことがありました。主に熱傷治療の全身管理と植皮術という形成外科領域の医療技術提供を目的とした医療支援活動のために、外交筋が蠢きを見せた瞬間でした。ここぞとばかりに北方領土四島(歯舞島&色丹島&国後島&択捉島)の一括返還を実現するチャンス到来と、返還交渉を加速する気運が昂まったのでした。時を同じくして札幌市内北部の某救急病院の救急当番日に、腹痛で救急搬送されてきた60歳台の患者さんに纏わった医療の顛末です。

 激烈な腹痛で救急搬送されてきた患者さんは、著明な腹部膨満を呈しており、腹筋の弱った腹壁には、腸の輪郭がくっきり浮き出ていて、瓦斯っ腹の緊満感が目立っていました。腸の蠕動音は昂進し、金属音と呼ばれる腸の通過障害を疑わせる所見を認め、レントゲン検査上、腸閉塞(イレウス)に陥っている病状が判明しました。併せて閉塞部位の口側には明らかな腸壁の膨らみを示す巨大結腸症が認められました。腹部USGや腹部CT検査上では上行結腸癌による完全腸閉塞と肝臓への転移性病変が多発しており、腹膜へも播種性転移が加わって、手遅れの末期大腸癌の診断となりました。

 取り敢えずのところは、輸液管理下、絶飲食とする中で、対症療法としての鎮痛・鎮静を図りながら、治療法を検討しましたが、根治できる策は見付からぬままで、姑息的に閉塞部の一時的切除手術を試みる策を提案し、本人及び家族と相談しましたが、家族の同意は得られたとはいうものの、本人は頑として拒んで受け容れてくれず、入院治療が長引く情況を避けたい旨の意思表示がなされました。

 というのも当時は、コンスタンチン君への医療支援が、並行している世相にあって、日露友好協会にとっては、北方領土問題の解決を目論む千載一遇の絶好のチャンス到来と色めき立っていた経緯があり、民間組織とはいえ友好協会の幹部として従来の活動に従事していた当該患者さんにとっては、居ても立っておられずに、詰めの日露交渉に携わりたいと、早く入院を切り上げたいとしきりに訴えてきたものでした。病状としてはそんな活動への復帰が赦される筈もなく、姑息的な治療を続けながらも、少しでも症状の緩和を図ることで、延命を目指す方法が、せめてもの次善の策と説得に当たる日々が続きました。進行大腸癌の告知の下、自らの残された僅かな余命を十二分に承知した上で、社会活動に我が身を没する覚悟の「Living-will」 を伝えてくれた末期の患者さんの断っての意思を叶えてあげれない緊迫した病状とのせめぎ合いの中で、刻一刻と遺された時間を浪費してしまい、悪液質の進行と共に、次第に体力も消耗し続け、喘ぎと呻きの中で、退院を訴える気力すら萎えたかのように、唸り声は繰り返しつつも、やがては閑かな息遣いに転じて、息を引き取り、永眠に至ったのです。

 コンスタンチン君が元気に回復して、愛でたく帰国に至った背景に、北方領土返還を目指す関係要人の大往生が隠れていた顛末を忘れてはならないと思う心遺りの医療となりました。北方領土の管理・支配には、その後に何の進展ももたらされることはありませんでした。
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